国際政経懇話会

第283回国際政経懇話会メモ
「世界の激動と日本:アベノミクスと日本の課題」

2016年5月31日(火)
グローバル・フォーラム
公益財団法人 日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会

 第283回国際政経懇話会は、島田晴雄・千葉商科大学学長/JFIR監事・副政策委員長を講師にお迎えし、「世界の激動と日本:アベノミクスと日本の課題」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

1.日時:2016年5月31日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「世界の激動と日本:アベノミクスと日本の課題」
4.講 師:島田晴雄・千葉商科大学学長/JFIR監事・副政策委員長
5.出席者:16名
6.島田晴雄・千葉商科大学学長/JFIR監事・副政策委員長の講話概要

(1)激動の世界に翻弄されるアベノミクス

 世界経済は今年に入り、激動している。約20年間、日本の消費者はデフレマインドに陥っていた。安倍政権は、これをインフレマインドに変え、購買意欲を掻き立てようとした。しかし、世界経済の激動の中で、それは実現しそうもない。2013年には物価が上がり始めたが、2014年の夏以降、原油価格急落でそれが止まった。そこで、2014年、黒田・日銀総裁は第2バズーカを放ち、結果、ベースマネー供給はGDP比7割にも達している。更に、今年1月末にはマイナス金利を導入した。そのおかげで、債券価格および不動産価格は上がったが、安倍政権発足後、2013年から成長率は低下しつづけている。また、2014~2015年に、実質賃金も大きく下がっている。日系大企業は国外に軸足を大きくシフトしているから、円安にしても輸出は増えない。それ以上に、人口縮小および高齢化問題は日本経済を長期的に破綻させる危険性がある。政府はこうした問題に関する2025年より先の予測数値を発表していない。それが明白になると、どの政権でも選挙民の支持を失う危険性があるからだろう。アベノミクスは短期の政策であり、人口縮小・高齢化に対する本格的な取組がないと、経済は持続可能性を失うおそれがある。

(2)新興国ブームの終息

 21世紀冒頭のIT不況から回復する過程で、新興国の時代が来るとされ、原油価格が上昇しつづけた。しかし、新興国筆頭の中国の高度成長率は2008年で頭打ちになった。そして、2011年頃から投機家達が売りに転じ、原油価格は2014年夏以降暴落。それがクロダノミクスの実現を阻んだ。新興5か国BRICSのなかで、最大のシェアを占めているのは中国であり、原油価格の反転の鍵を握るのは中国の復調だろう。

(3)中国経済の展望

 2008年、リーマンショックで米国が世界に迷惑をかけた後、中国は、4兆人民元(57兆円)の財政出動をした。中国の地方を視察したが、鉄道の線路沿いの数キロメートルおきに40階建のビルが建っていた。しかし、夜になると、それらのビルの半分以上は光が点いていない。中国は計画経済である。中国の巨大な経済と深刻なバブル、そしてシャドーバンキングが大問題となっている。中国の過剰生産額は400兆円もあると推計されている。なお、その中国は、この170年間、「アヘン戦争敗戦以来の屈辱を晴らす」ことを夢としてきた。中国は米国に「太平洋を米中で二分割支配」することを提案した。そんな中国だが、日本との共同利益は非常に大きい。中国がハードランディングすると、日本経済は潰れる。現在、中国は「中進国のジレンマ」に陥っている。ベルリンの壁崩壊時、中国と先進諸国の所得格差は100倍あった。それが現在、3倍にまで縮小している。中国はもはや低賃金国ではない。欧米諸国が19世紀、日本が20世紀後半に直面した壁に、中国は現在、直面している。中国は賃金の安さで世界と競争できなくなった。

(4)米欧経済の展望

 米国は利上げするのか?かつてプラザ合意のような粗暴な行動をとった米国とは打って変って、イエレン議長は金融政策の舵取りに慎重である。ギリシャの若手首相(ツィプラス)にユーロ圏の団結は揺るがされている。中国はギリシャに港を買った。ロシアが買ったら、そこは軍事基地化されてしまうので、もし、そのような事が起きそうになったら、EU諸国は何としてでもそれを阻止しようとするだろう。英国は「EUからの離脱」等をめぐる意見の対立で、保守党が分裂状態である。英国はEUを離脱しようとしているし、米国では大統領予備選で「トランプ旋風」が発生している。ユーロ圏やEUが分解するようなことがもし起きれば、日本も津波のような影響を受けるだろう。

(5)ISとテロリズム

 ISは、中東に「力の空白」が発生した事で生まれた。ブッシュ・ジュニア前米大統領およびマリキ前イラク首相による失政のせいで生まれたのである。シリアでは、アサド・ジュニア大統領よりISの方が「まだマシだ」という状況に陥っている。そのISは、インターネットを見てテロに参加しようとするような危険なローンウルフを世界中に大発生させている。

(6)日本経済の展望と再生への課題

 日本は、2020年までは政府の楽観シナリオのように実質2%、名目3%で成長しても、基礎的収支は2020年には10兆円以上のマイナスとなる。政治家は(票が大事なので)株価および短期成長率を大事にする。社会保障改革に安倍政権は手をつけない。富裕層および企業保険から手をつけている。高齢者の負担を増やそうとしていないのである。医療改革も混合診療などのごく一部に手がつけられただけで、医療保険の構造全体の改革には遠く及ばない。なお、連立与党の公明党は、軽減税率を主張している。党支持者に低所得者が多いためである。しかし、富裕層の方が貧困層よりも食費(エンゲル係数)が10倍も多いのが現実であり、軽減税率は実際には逆進的ですらある。それを選挙対策として進めようとしている現政権の経済政策の真剣度には、疑問を持たざるを得ない。

(文責、在事務局)