国際政経懇話会

第289回国際政経懇話会メモ
「新段階の日本の大国間外交」

2016年12月26日(月)
グローバル・フォーラム
公益財団法人 日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会

 第289回国際政経懇話会は、中西寛・京都大学公共政策大学院長・教授/JFIR参与を講師にお迎えし、「新段階の日本の大国間外交」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

1.日時:2016年11月28日(月)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「新段階の日本の大国間外交」
4.講 師:中西寛・京都大学公共政策大学院長・教授/JFIR参与
5.出席者:25名
6.中西寛・京都大学公共政策大学院長・教授/JFIR参与の講話概要

(1)トランプ氏とレーガン元大統領の比較

 レーガン元大統領は、ソ連およびイランに対する弱腰および国内のインフレを止められなくて不人気だったカーター元大統領の再選を止めて当選したのであり、2期務めたオバマ大統領後のトランプ氏とは違う。今回も、オバマ政権に対する不満、クリントン氏が当選した場合にオバマ大統領の政策が継続されることに対する不安が、トランプ氏当選を後押しした。このトランプ氏による新政権の人材配置をみると、共和党以外の人材は、実業界から比較的多く採用している。レーガン元大統領が比較的成功したと言われるのは、実業界、軍および宗教保守グループがレーガン連合を形成したからである。彼らはその後、ブッシュ・ジュニア時代にネオコンとして再結集したが、9.11以降、(協調関係が)上手くゆかず、結局は分裂した。また、リーマンショック以降、実業界も表立って共和党支持を明言出来なくなり、それがオバマ大統領当選に繋がった。オバマ時代にも(保守運動の)ティーパーティーが現れたりしたが、共和党はまだ分裂状態にある。そのような現状でトランプ氏は「レーガン連合」を再構築しようとしている。トランプ氏のスローガンである「アメリカを再び偉大にしよう」は、レーガン元大統領も言っていたものである。レーガン元大統領は、ジョンソン時代に民主党から共和党へ移った経歴の持ち主である。トランプ氏は、はっきりとした政党支持はしてこなかったし、民主党と共和党の間を往き来していて、オバマ時代に漸く共和党支持を明確化した。トランプ氏は元テレビ番組司会者であり、(レーガン元大統領同様)ある意味演劇的パーソナリティーを持っている。レーガン元大統領はソ連との対立を明確化し、外交および軍事に注力し、反ソ国家への支援を基本路線としていた。トランプ氏は、「アメリカ・ファースト」であり、米国にとって国益になるかどうかだけの、単独主義が目立つ。レーガン元大統領は、政策への理解力は無かったが、反対派も魅了出来る「グレート・コミュニケーター」であり、その姿勢がゴルバチョフ元ソ連大統領との対話にも貢献した。しかし、トランプ氏が「グレート・コミュニケーター」になる可能性は低い。彼はツイッターのヘヴィーユーザーであり、彼によるツイート内容には暴言または暴言に近いものも含まれている。

(2)レーガノミクスとトランプノミクス

 1970年代に戦後のブレトンウッズ体制が揺らいだ時に、新グローバル化を実現させるためにレーガノミクスが登場した。レーガン元大統領は貿易を拡大しようとして、日本にも市場開放を求めた。トランプノミクスは減税および規制緩和はレーガノミクスと共通だが、トランプ氏が金利引上げを好むかは分らない。しかし、彼が重商主義で反移民政策を採ることはほぼ間違いない。彼は国際協定離脱、大幅な修正を口にしており、TPP離脱方針を変える可能性は低い。なお、シェール革命によって、米国はエネルギー輸出国に戻りつつある。1970年代以降、化石燃料輸入国に転じていた米国が、世界最大の輸出国になるかもしれない。

(3)日本の大国間関係

 米国が高金利政策を採り続ける限り、日本は異次元緩和を続けざるをえないだろう。北朝鮮は、米国の新政権発足時には、毎回何か行動を起こしている。(対朝での)安保対話が重要になって来るかもしれない。また、ロシアのプーチン政権が西側諸国に対して抱いている猜疑心は根深いので、トランプ政権が対ロ関係を改善したとしても続かないだろう。中国は、トランプ氏が蔡英文・台湾総統と電話会談を行ったにも関わらず、慎重に対応している。しかも、拿捕した米軍の無人潜水艦も返還すると表明した。習近平政権は、現時点でトランプ氏を刺激しても得にならないと考えているのかもしれない。中国が対日で独自に何かをするということはないだろうが、対米牽制として政治的に日本に強硬になる一方で、)経済面では対日関係を重視する政冷経熱のパターンが再来するかもしれない。EU諸国では、フランス大統領選でトランプ氏がルペン氏支持を表明すると、ドイツのメルケル首相は苦しくなる。トランプ氏は英国のメイ政権と関係を強化するだろうし、それによってEU離脱後の英国は地位をキープしようとするだろう。日本は、欧州では英独両国を押さえておくべきである。また、トランプ氏はインドのモディ首相を高評価している。インドではIT通貨が普及しているようだが、それが先進諸国に拡がるきっかけになるかもしれない。今後20年間の間に、米ドル一強の現状を変える国際通貨の変化が生まれるかもしれない。

(文責、在事務局)