国際政経懇話会

第294回国際政経懇話会メモ
「最近の中東情勢について」

平成29年6月12日(月)
グローバル・フォーラム
公益財団法人 日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会

 第294回国際政経懇話会は、上村司外務省中東アフリカ局長を講師にお迎えし、「最近の中東情勢について」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

1.日 時:平成29年6月12日(月)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「最近の中東情勢について」
4.講 師:上村 司 外務省中東アフリカ局長
5.出席者:28名
6.講話概要

(1)中東北アフリカ世界の概観

 中東では毎日、流血沙汰の惨事が起きている。今、中東以上に世界情勢を揺るがしている地域は無い。その中東にはいくつも重要な国があるが,特に注目したい5つのプレーヤー(サウジアラビア、エジプト、トルコ、イラン、イスラエル)が存在する。最近は,サウジとイランの対立が目立つ。サウジとイランの確執は、スンニ派対シーア派の要素もあるが,だからといって宗派対立だと定義するのは必ずしも正しくない。アラブ対ペルシャという,地域の覇権を争う構図がみえる。

(2)トランプ米政権の中東政策

 オバマ時代の米国は、徐々に中東へのコミットメントを減らしてきた。アンパイヤが不在となった中東では地域プレーヤーが夫々の思惑で動くようになっていた。そのような状況下でサウジ対イランの対立が顕在化したのである。しかし、トランプ政権移行後、再び米国が地域に戻ってくる気配がある。そのトランプ氏は、必ずしも親ユダヤ一辺倒ということではなく,キリスト教、ユダヤ教,イスラム教に目配りしていることが最初の外遊から見てとれる。

(3)サウジおよびエジプト等とカタールの外交関係断絶

 GCC(湾岸協力会議)が現在、分裂の危機にあり、「カタール村八分」という、今までにみられなかった事態が発生している。今回の危機の原因はいろいろ解釈があろうが,90年代半ばからのカタールの独自の近隣外交政策が遠因となっている。例えば,アルジャジーラ放送局は、カタール首長が90年代半ばに「中東のCNN」として開局したが,サウジやエジプト等、周辺諸国を批判する内容の番組を放送して,それらの国を困惑させてきた。カタールには「小国のまま埋もれたくない」という思いもあるとする見方も強い。また,カタールは、ムスリム同胞団およびハマス等の活動を支援し,近隣国を苛立たせてきたということもある。

(4)最近のイラク・シリア情勢

 「アサド政権を相手にせず」の姿勢をトランプ氏は変えた。その一方で,トランプ氏はアサド政権の空軍基地をトマホーク・ミサイルで攻撃し、勝手は許されないという強いイメージを出した。イスラム国は、「中世イスラム帝国のイスラムの理想の時代に戻る」という「原点回帰」,ウンマ至上主義のリセット思想に立脚している。現代の国民国家という概念に真っ向から対立するもので,域内のみならず全世界から,今のシステムに不満を持ち,絶望する若者を惹きつけている。加えて,イラクのサッダーム政権の軍務や実務のプロ(スンニ派)が加勢しており,この危機を克服することは,とても難しい。仮にイラク,シリアでイスラム国を駆逐できたとしても,このリセット思想を根絶することは不可能だろう。今の中東における様々な危機に対処するためには,まずは住民レベルのレジリエンス(抗湛性)を高め,治安を回復し,悪者が治安の悪さにつけ入る隙を与えないことが肝要。そのためには,誰が指導者になるにせよ,中東で当り前となっている“Winner-take-all”というやり方を改め,少数派や敗者にも目を配るという統治モデルを確立することが大事だ。きれいごとの「民主主義」ではこの地域は治まらない。

(文責、在事務局)