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2011-01-06 09:42

(連載)「アルカイダ」報道の背景にあるもの(2)

溝渕 正季  日本国際フォーラム研究助手
 なお、近年しばしばメディアで報じられる「イエメン・アル・カーイダ」は、「アルカイダ」本体の残党をいくらか含むものの、あくまでもイエメンにおける反体制組織に過ぎない。また、イラクやアルジェリアを中心とする北アフリカ・サハラ地域にも「アルカイダ」を名乗る団体が活動しているが、いずれも個別の活動や思想上の営為でいちいちビン・ラーディンら幹部からの指令を待っているわけではない。

 このように、「アルカイダ」とは、決して世界のどこかに作戦本部を持ち、確固たるヒエラルキーや指揮系統を有するような「国際テロ組織」あるいは「悪の秘密結社」ではない。そのような組織はそもそも存在しないのである。にもかかわらず、複雑な政治的・社会的土壌の上に生み出された個々の暴力事件に対して、単に「アルカイダによる犯行」というレッテルを貼り付けただけで済ませていては、そこで思考停止に陥りかねない。

 いかなる政治的事件に関してもそうであるが、中東地域の事案についてはとりわけ、その背後にあるものに常に注意を払うべきだ。今回の事件で言えば、当該国家や社会に暴力事件を引き起こすような政治的・社会的土壌があったのではないか、そして「アルカイダの犯行」とする現地政府の発表は国内外の世論や報道機関の目をそうした土壌から逸らす狙いがあるのではないか、といった点に留意すべきであり、そうした観点から今後の対策を講じるべきであろう。

 いずれにしても、今回の事件に関する真相はいまだに闇の中であり、今後も捜査の行方や犯行声明等に注意を払っていく必要がある。また、我々には「アルカイダ」報道を鵜呑みにするのではなく、その背景にある政治・社会状況や政治的意図を読み取る姿勢が求められよう。(おわり)
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