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2016-04-26 00:26

(連載2)ウクライナにみるロシアと日本

牛島 薫 団体職員
 しかし、根本的にはロシアの勢力拡大政策は中国と同じであり、癌が蝕むがごとく一方向的に時間をかけて譲歩を迫っていき、相手が深刻さに気付いたころには手遅れという戦略である。対日関係においても日本に対して北方領土問題は解決済みとして門前払いする一方で日ロ平和条約締結に向けて約束を果たしていくべきだと矛盾した要求をもする。それは、日本と友好関係を築くことで経済的利益を得つつ、北方領土すらも千島・樺太のように完全に断念させたいという思惑であって、日本に妥協する用意が全くないことを示している。



 そして、それはひとえにロシアが警戒するに値する日本の主体的な影響力が希薄であるために譲歩する必要性がないからである。そんな日本がウクライナのようにロシアによって屈辱を味わわせられないで済んでいるのは一にも二にも在日米軍がにらみを利かせているからであるといっても過言ではない。ロシアは米国に対して柔軟なだけなのであって、本質的にはウクライナと同様、日本を尊重すべき相手とは見ていないのである。



 現状で日本にとって付け入るスキがあるとすればロシアの経済的困窮しかなく、e-論壇でも北方領土を困窮したロシアから買い取ってやるくらいの大上段で構えればよいというような論説もあった。しかし、現段階ではそういう方向にはなっておらず、中国がロシアのパートナーとして活発な経済交流をさらに発展させている。日本にとってチャンスどころか、ウクライナ危機に端を発した中露の友好関係の深化は日本にとって悪いシグナルである可能性もある。



 その点では、安倍政権がとっているような分不相応で中途半端な対露姿勢は欧米を苛立たせるだけで日本の外交戦略においてはデメリットの方が大きいのではないか。プーチンが君臨しているうちに自らの手で北方領土問題を前進させ、日露蜜月を演出することで外交成果を強調したい安倍首相の焦りかと愚考するが、ロシアに無暗に駆け寄るような誤ったメッセージを送るようなことはしないほうがよい。日本が何を譲れない要素としているのか再認識させるためにロシアを突き放すことも必要だ。今は減退する北方領土返還の国内世論を喚起する運動を支援しつつ、国際秩序の主要プレイヤーになってロシアに尊重すべき相手と認めさせるための努力をすべき時だ。捲土重来を期するという気の長い覚悟が必要であろう。(おわり)
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(連載1)ウクライナにみるロシアと日本 牛島 薫 2016-04-25 12:46
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