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2007-09-28 08:09

連載投稿(2)イラク問題の隠された重要側面

山内昌之  東京大学教授
 エルドアン・トルコ首相は北イラク侵攻に慎重であった。それはコストの高さ、経済的打撃、EU加盟への障害、欧米の人権論的反発、イラク問題という「手負いの獅子」に引きずり込まれる危惧などを総合的に勘案したからだろう。

 これとは対照的に、クルド問題の最終解決の機会ととらえた国防軍は、干渉に積極的であった。双方の対立には、イスラーム主義のAKP対世俗主義の牙城である国防軍という構図もからんでいた。もちろん、クルド問題の妥協的解決が不可能なわけではない。イラク政府を通してイラク自治区のクルド人にPKKへ圧力をかけさせ、テロ指導者の逮捕とアンカラへの引渡しは、トルコの求めている最低限の要求であろう。しかしクルド自治政府はその領土にPKKが入った事実を否定しており、個別にトルコ系クルド人を保護する権利を放棄しないのである。イラク中央政府とトルコとの関係が必ずしもうまくいっていない最大の原因である。

 PKKとなると妥協しないトルコは、中東の新たな危機をひきおこさないのだろうか。結局、トルコは、シリアにおけるレバノンのようにイラクのクルド人自治区を「国家独立自衛の道」における山縣有朋の名づけた主権線(国境)を越えた「利益線」としてとらえる思考法を、止めないだろう。それは極端な場合、キプロス侵攻のような実力行使として発揮されるにちがいない。これはイラク問題の隠された重要側面でもある。(おわり)
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連載投稿(1)トルコとクルド――もうひとつのイラク問題 山内昌之  2007-09-27 19:50
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