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2026-05-20 18:46

(連載1)すでに北朝鮮には原子力潜水艦があるのではないか?

宇田川 敬介 作家・ジャーナリスト
 先日、ロシアが北朝鮮に対し、ウクライナ戦争への派兵の見返りとして原潜用原子炉を丸ごと支援していたのではないかとの報道がありました。今回は、北朝鮮がすでに原子力潜水艦を保有している可能性が高いということに関してその内容を見てみたいと思います。とくに東アジアにおける安全保障の内容を考えてみましょう。そもそも潜水艦とは、そのほとんど、つまり推進力を得ることや浮上をする、潜水をするというポンプの起動、内部の空気の維持などを充電電池で行っています。その為に、ディーゼルエンジンを回してバッテリーに充電するために、定期的に海面近くまで浮上(またはシュノーケルを吸気のために出す)しなければなりません。この充電のタイミングが、敵に最も見つかりやすい最大の弱点となります。一方、原子力潜水艦は原子炉の核分裂エネルギーで動くため、燃料を燃やすための酸素を必要としません。艦内で海水から酸素や真水を作り出せるため、理論上は数ヶ月、あるいは燃料棒の交換が必要になる数年?数十年間、一度も浮上せずに潜り続けることが可能です。
 
 また、原子力潜水艦は、原子炉から生み出される膨大な電力を惜しみなく使えるため、水中でも20?30ノット以上(時速40~50キロ以上)という高速を維持したまま、何日も走り続けることができます。これにより、広大な海洋を迅速に移動して目的地へ向かう能力(進出能力)が圧倒的に高くなります。また、そのように電力を惜しみなく使えることから、原子力潜水艦は通常動力型に比べて船体を非常に大きく作ることができます。大型化によって、長距離を攻撃できる弾道ミサイル(SLBM)や巡航ミサイルを垂直発射管(VLS)に多数搭載できるようになり、一隻で一国を抑止するほどの凄まじい攻撃力を持つことが可能になります。このような兵器を、北朝鮮が保有している可能性が高いということになるのです。

 北朝鮮が原子力潜水艦を実戦配備した場合、日本が直接的に直面する物理的・心理的な危険は、主に本土への奇襲攻撃能力の飛躍的な向上と、それを迎撃する難易度の劇的な上昇という二つの側面から生じます。最も差し迫った危険は、これまでの日本のミサイル防衛網の隙を完全に突かれる形での奇襲リスクです。現在の日本の防衛体制は、主に北朝鮮の地上基地や移動式発射台から発射され、日本海を越えて飛来する弾道ミサイルを想定して構築されています。そのため、警戒レーダーや迎撃システムは主に北朝鮮の方向に向けて最適化されています。しかし、航続距離と潜航時間に制限のない原子力潜水艦が、日本のレーダーの死角となる太平洋側、あるいは日本列島の真横や背後にまで隠密裏に回り込み、そこから弾道ミサイルや巡航ミサイルを発射する能力を持った場合、事態は一変します。発射の兆候を事前に察知することはほぼ不可能になり、極めて短い飛行時間で、あらゆる方向から同時に本土が狙われることになるため、現在の迎撃システムだけでは対応が極めて困難な、文字通りの防衛不全に陥る危険があります。

 また、日本周辺の主要な海上交通路(シーレーン)が、いつでも分断されかねないという死活的な危険にさらされます。資源や食料の大部分を海上輸送に依存している日本にとって、太平洋や東シナ海、日本海といった周辺海域の安全は国家の生存そのものです。神出鬼没の北朝鮮原潜が日本の沿岸近くや主要な航路に潜伏している可能性があるというだけで、民間商船やタンカーは航行が困難になり、経済や国民生活が瞬時に麻痺するリスクが生じます。さらに、有事の際にアメリカ軍が日本を救援・防衛するために展開しようとする増援部隊や空母打撃群に対し、北朝鮮原潜がその進路を阻む「接近阻止・領域拒否」の強力な手札として機能するため、日米同盟による抑止力や防衛行動そのものが実質的に骨抜きにされる恐れもあります。さらに、原潜が日本周辺の領海や排他的経済水域のすぐ近くに潜み続けることによる、平時からの強烈な「核の心理的恫喝」という危険も無視できません。日本国民や政府は、自国の目の前の海に、いつどこにいるか分からない核兵器が常に徘徊しているという極限の恐怖と隣り合わせで暮らすことを強いられます。これにより、北朝鮮が外交的・政治的な要求を突きつけてきた際、日本側が強い姿勢を貫くことが難しくなり、平時であっても実質的に北朝鮮の軍事力に国家の意思決定が揺さぶられ続けるという、主権や安全に対する極めて重大な脅威にさらされることになります。(つづく)


 
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