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2009-01-29 10:46
総合的な軍事能力の強化をめざす人民解放軍
増田 雅之
防衛省防衛研究所教官
公表が遅れていた中国の国防白書『2008年中国の国防』が1月20日に国務院新聞弁公室から発表された。今回の白書について、防衛省の増田好平事務次官は「国防の透明性の向上に向けて、それなりの努力を示している」と前向きな評価をする一方で、国防予算の内訳・装備の数量・調達の計画等の面で、依然として「不十分な点がある」とも指摘し、中国の国防政策の透明性のさらなる向上が不可欠との見解を示した(1月26日)。
透明性の向上に向けた中国の「それなりの努力」は、国防白書の構成にみることができ、陸海空及び第二砲兵についての言及を独立させ、それぞれの役割や戦略が解説されている。2000年、2002年の白書では「武装力量」の項目の中で各軍種を含む解放軍部隊、武装警察部隊、民兵の役割が言及され、2006年の白書は解放軍部隊と武装警察部隊を別立てとした。今回の白書は、各軍種を個別に記述することによって、「透明性」の向上が図られたのであり、白書の執筆者の一人でもある軍事科学院戦略理論・戦略研究部の陳舟研究員もこの点を「最大の注目点」の一つとしている(中国新聞網、1月20日)。また、中国の戦略ミサイル部隊である第二砲兵に関する記述では、わずかではあるが、その具体的な任務が記述されており、中国の核戦略を記述した数少ない中国の公的文書ともなっている。加えて、今回の軍種別の記述から明らかになることの一つは、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)が第二砲兵ではなく、海軍の指揮下にあるということでもある。
また、今回の国防白書の特徴は、安全保障情勢の複雑性や不確実性が今まで以上に強調されていることであろう。当該個所の冒頭では「新世紀に入り、世界は大変革・大調整・大変化の中に置かれている」と言及されている。確かに、「平和と発展は依然として時代の主題である」という1980年代以降の公式な情勢認識は継続されてはいる。しかし、中国の指導者等が世界の「大変革・大調整・大変化」に言及する際、それは近年の構造的変化を意味することが多い。白書も「地球規模の挑戦は日増しに増加し、新たな安全保障への脅威の要素が絶えず出現している」と強調している。また、「大変革・大調整・大変化」は、直面する情勢変化を指す言葉ではなく、国際システムの「深刻な調整」を意味するとともに、今回の白書は国内外情勢の相互連動への注目も促している。
こうした構造的変化の中で、如何なる国防政策を中国は採っていくのであろうか。白書は「科学的発展観」に立脚して、「発展と安全の統一を実現し、伝統的安全保障問題及び非伝統的安全保障問題を併せて考慮し、国家の戦略能力の建設を強化する」ことを主張している。すなわち、構造的に複雑性や不確実性を深化させている中国の安全保障環境への総合的・統一的な対応の必要性が今回の国防白書では強調されていると理解できるのである。そうであるとするならば、解放軍のミッションは多様化し拡大する。伝統的領土・領海・領空の範囲を超えて、海洋・宇宙・電磁空間の安全を守ることの必要性は、これまでも『解放軍報』等で強調されてきたが、白書では加えて反テロや国内安定・応急救難・国際的な平和維持任務という「非戦争軍事行動能力」を向上することがうたわれている。今回の白書には、総合的な軍事能力を向上・強化する解放軍の意思が示されており、それを下支えする国防費の増加傾向も変わりそうにはない。
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