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2009-04-20 09:33

(連載)攻守所を変えて泥沼化するタイのデモ (1)

関山 健  東京財団研究員
 タクシン元首相を支持する反政府デモ隊が「アピシット首相は退陣せよ」、「ASEAN会議を中止しろ」と叫ぶ。4月11日、タイ中部のパタヤ市内で開催を予定されていたASEAN諸国と日中韓の首脳会議や豪印との首脳会議が、反政府デモによる混乱を受けて、延期に追い込まれた。反政府デモ隊はその後活動の拠点を首都バンコクへ移して首相府を包囲したが、12日にアシピット首相が非常事態宣言を出して治安当局による強制排除に乗り出した結果、15日には反政府デモ隊も撤収を余儀なくされるに至った。周知のとおり、今回の混乱は、昨年10月から続くタイ国内のデモ騒ぎの延長線上にある。以下に経緯をおさらいしたい。

 事の発端は2006年9月、医療制度改革や貧困対策で地方の農民や貧困層を中心に絶大な支持を得ていたタクシン元首相が、軍事クーデターにより追放されたことに始まる。クーデターの背景には、王室を十分顧みない華人系のタクシン元首相が、地方を中心に強固な支持を固めていたことに対する、王室擁護派の反発があったと言われる。その後、軍による暫定政権を経て、07年12月に総選挙が行われた際にはタクシン派が勝利した。しかし、これを不服とする反タクシン派の「民主主義市民連合」(PAD)は、08年10月に国会前でデモを起こして警官隊と衝突、500名規模の死傷者を出した。さらにPADは、バンコク近郊の主要2空港を占拠して機能不全に陥れ、多くの外国人旅行客やビジネスマンに足止めを食らわした。

 そもそもASEAN+3首脳会議や東アジア首脳会議は昨年12月に開催を予定されていたのだが、このPADによる空港占拠のために延期されたものである。結局、12月にはタクシン派のソムチャイ政権が混乱の責任をとって崩壊し、PADが支持するアピシット首相が政権についた。ところが、話はこれで終わらない。PADのデモによる政権転覆に反発するタクシン派「反独裁民主同盟」は、今年1月にアシピット首相退陣を求めて3万人規模の集会を開催、2月には1万人のデモ隊が首相府を包囲したこともあった。こうした経緯を経て、「反独裁民主同盟」は4月9日に東アジア首脳会議等の妨害を宣言し、今回の混乱に至った次第である。
 
 反タクシン派のPADが国王のシンボルカラーである黄色のシャツを着てデモを行ったのに対し、タクシン派の「反独裁民主同盟」は赤色のシャツで今回のデモに臨んだ。地方の農民や都市の貧困層を支持者とするタクシン派に対し、バンコクの中間層や官僚などのエリートは反タクシン派を支持していることから、レッドシャツ(タクシン派)対イエローシャツ(反タクシン派)の対立は、こうした地域格差・階級格差の対立とも言える。(つづく)
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