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2025-09-16 18:27

(連載1)中国籍事業者和牛不正輸出事件に見るリスク

倉西 雅子 政治学者
 先日、中国籍の事業者が冷凍和牛の不正輸出の廉で逮捕されたとするニュースが報じられました。事件の概要は、30トンの冷凍和牛をカンボジア向けと偽って香港に輸出したというものであり、関税法並びに家畜伝染病予防法に違反に当たるそうです。この事件、今日、日本国が抱える様々な問題を浮き彫りにしています。
 
 同中国籍事業者が輸出先を偽装した動機は、香港向けの輸出の場合には、農林水産省動物検疫所から輸出検疫証明書の交付を受ける必要があったからなそうです。つまり、カンボジア向けの輸出にはこうした煩雑な手続を要しないため、輸出先を偽装すれば、手間もコストも削減できたのです。今般の事件は、栃木県宇都宮市の事業者によりますが、同様の事件は全国各地で起きており、過去には福岡県や兵庫県でも中国籍の事業者が逮捕されています。
 
 同事件から分かることは、日本産の農産物輸出に対しては、量的な輸出規制は行なわれていない現状です。それどころか、日本国政府は、さらなる輸出促進に勤しんでいるのが現状です。仮に、輸出先を偽らず、検疫等の手続を済ませていたならば、何らの問題もなく輸出されたことでしょう。実際に、2024年の時点では、牛肉輸出量1万トン、輸出額648億円にのぼり、10年前の凡そ8倍に達しているそうです。「和牛ブーム」もあり、海外富裕層の向けの輸出は好調のようです。
 
 この事件は、第一に、グローバル化推進政策によって、日本国の農業が‘世界市場’に組み込まれつつある現実を現わしています。つまり、国内の高品質高価格のブランド農産物は、海外の富裕層向けに生産され、一般の日本国民は、安価な輸入食品を購入するという構図です。同現象は、和牛に限らず、今や、様々な農水産物にも及んでいます。日本人の主食であったお米にも同様の変化が起きており、日本国政府はブランド米の輸出を後押しする一方で、米市場の開放に舵を切ろうとしているように見えます。このままグローバル化を続けますと、日本国の食糧自給率は低下の一途を辿り、食糧安全保障もさらに遠のくことでしょう。中国人による農地取得が増えれば、やがて、中国人農家⇒中国人貿易事業者⇒中国市場⇒中国人富裕層という流通の流れが出来上がるかもしれません。(つづく)
 
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