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2008-07-04 20:09

(連載)日本の「徳」と拉致問題(1)

山内昌之  東京大学教授
 アメリカによる北朝鮮のテロ支援国家指定の解除のニュースを聞いて、拉致家族の人びとはいたたまれない気がしたことだろう。まことに同情に堪えない。アメリカ最重要の政策が北朝鮮の核兵器の開発と拡散の阻止にあることを知るにしても、日本人こぞって自らを襲った悲劇と受けとめている拉致被害者問題が、アメリカ中心の国際政治の冷厳なリアリズムの前に色褪せるのではないか、と危惧する日本人も多い。心ある日本人は一段と外交力の強化と国民世論の成熟を達成する必要性を痛感しているはずだ。私を含めて、必ずしも北東アジアの専門家でなくても、拉致問題を解決しつつ、日本が世界の共存的平和と東アジアの調和的繁栄のために貢献すべき道と、政治における「徳」とは何かを、真剣に模索する人間も少なくない。

 荻生徂徠の『政談』には、飢饉に備える為政者の心得として、「七年の疾に三年の艾」という『孟子』の文が引用されている。艾は長く乾かしたものほど良いというが、七年間も病にありながら、心がけが良くなく、三年も干した良い艾を急に求めても得られるものではない、という意味なのだ。まさに「その時に至りてはせん方さらにあるまじきなり」なのである。この心構えは、二十一世紀の日本の進路を、外交のありかたや内政の課題と関連づけようとする真摯な人間たちにもあてはまる。このような志は、今回のような問題を冷静かつ広角度の視点から眺めることにもつながる。

 いま喫緊に必要なのは、財界や官界に関係する者からジャーナリズムや学界に身をおく者に至るまで、幅広い経験知を集めながら、日本の政治と経済が内外で問われている課題を整理し、拉致問題の処方に必要な知恵を虚心坦懐に出し合うことである。この舞台としてグローバル・フォーラムが大きな頼りになることはいうまでもない。(つづく)
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