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2008-07-05 09:48

(連載)日本の「徳」と拉致問題(2)

山内昌之  東京大学教授
 アメリカの一学者は、世界史的に見て二十世紀の「画期的なできごと」として、日本が初めてヨーロッパのアジア支配を斥けた一九〇四年の日露戦争と、五三年の朝鮮戦争の終結による朝鮮半島の南北分断というアジアの出来事を挙げている。二十一世紀においても中国とインドの成長と脅威が、共に感じられるアジアの存在感は世界を揺り動かすことになるだろう。他方、アメリカはじめ西欧の資本主義を基礎とするグローバルな普遍主義は、戦争と革命をもたらした結果、文明論的な次元での公共善をめぐる深刻な対立と亀裂を人びとの間に残すことになった。

 イスラームによる新たな挑戦とアメリカの正面からの応戦は、二十一世紀の人類社会にテロと格差をめぐる深刻な問題を残す一例である。そして、北朝鮮による拉致こそ、冷酷無情のテロ以外の何者でもないことを改めて銘記すべきであろう。北朝鮮という存在が半島分断の悲劇の所産であることを勘案しても、またアメリカがテロ支援国の指定を解除しようとしまいと、日本の基本認識は変わるものではない。
 
 現在の日本ほど人間の個別利害と公共善との緊張に充ちた関係が問われている社会も珍しい。だからこそ拉致問題というヒューマニティの原点に関わる事象を揺るがせにできないのである。私たちは、日本人の豊かな将来のために総合的な視野で、二十一世紀の文明と秩序のあり方を考える必要性があると信じている。それには拉致被害者をきちんと自らの懐に取り戻すことが必要なのである。イタリアの政治思想家マキャヴェッリも述べたように、安定した政治秩序をつくり維持するには「徳」こそ不可欠なのだ。徳が衰退し利害関心にこだわる人間が多い時代において、公と私の生活の均衡を目指しながら公共善の再建をはかる方策を内外に発信するのは日本の使命でもある。拉致問題の解決はその試金石でもあるといえよう。(おわり)
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(連載)日本の「徳」と拉致問題(1) 山内昌之  2008-07-04 20:09
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