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2008-12-01 16:14
田母神事件と異論の尊重
内海 善雄
前国際電気通信連合事務総局長
田母神氏は、航空幕僚長として、その職務と極めて関係の深い日本が関与した戦争の問題について、しかも国際関係上極めて政治的な案件について、政府の公式見解と異なる意見をことさら発表したものだから大問題となった。しかし、もしたとえば農水省の一般公務員が同じ問題について論文を発表したら、誰が問題にしただろうか?たまたま職業が公務員だったというだけでは、誰からも問題にされなかったに違いない。当然公務員にも言論の自由があるが、それは職務に関係のないものであって、このように職務と密接な関係のある事柄については、無責任な発言が許されるものではない。むしろ守秘義務さえ負っているのである。
したがって、私はこの案件に関しては、田母神氏には明らかに言論の自由はなく、正しい行動ではないばかりか、国益を損なう極めて危険な行動でもあったと思う。しかし、私が関心を持ったことは、田母神氏が正しかったかどうかよりも、むしろマスコミや一般のこの事件に対する取り組み方の方である。ほとんどの識者やマスコミは、論文の内容については、「拙劣で取るに足らないものだ」とコメントしているが、彼が提起した歴史認識については、村山談話を当然の公理として受けとめ、議論を避けているように見える。
最近、『アメリカの鏡・日本』(ヘンリー・ミアーズ著)を読んだ。著者は、GHQ労働局諮問委員会の一員として来日し、日本の労働法の策定に参加した日本研究の学者である。1948年に本書を書いたが、マッカーサーによって、日本語出版を禁止された。しかし、終戦50年後にやっと翻訳されたものである。私は、この本を読んで、まさに目の鱗が取れる思いがあった。また、自分が恥ずかしくなった。今まで教わったり、信じてきた歴史観がかなり疑わしいものであると思わざるを得なかったからである。勝者アメリカの占領軍の一員が、占領中にこれだけ客観的に日本を分析し、また置かれてきた国際関係を冷徹に見ていたということは驚きであった。しかし、言論の自由を標榜したはずのマッカーサーは、この著者には、「公共の安全を脅かす」といって、出版を許さなかった。
日本人は、しきりに日本国や日本人を貶すが、私は長い海外生活において自国や自国民を貶す国民をあまり見たことがない。また、悪いところを曝け出しても、何の得にもならない。何時から日本人はこれほど自虐的になったのだろうか。反省すべきことは率直に反省しなければならないが、全てのことに「日本国や日本人が悪い」と言っていたら、「では外国に移住すればよいではないか」と言われるだろう。日本人は、日本のよいところを見て、自信を持つべきことはもっと自信を持つべきであると思う。
田母神事件は、日本人が日本の立ち位置を見直すきっかけとなって欲しい。言論の自由を100%謳歌できる言論人や学者こそが、新たな史実を発掘し、国際関係を見直し、正しいと思う歴史観や国家観、また、日本のよいところを喧伝すべきである。さらに重要なことは、一市民が世の中に流布する意見と異なることを自由に述べられる環境を、ぶち壊さないことである。航空幕僚長の行動は許されないものであったが、その行動を批判するあまり、異論を認めない風潮ができると一大事である。異論を尊重することこそが、民主主義の大原則であり、また日本に必要なイノベーションの源泉でもあるから。
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