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2009-02-15 14:36

(連載)オバマ新政権の対日政策(2)

関山 健  東京財団研究員
 しかし、筆者は、オバマ新大統領が見せる一連の日本寄りの姿勢に別の含意を感じている。そもそも、オバマ新大統領にとって当面最大の課題は、国内的には未曾有の経済危機への対処であり、外交的にはイラク・アフガン問題の適切な処理である。その両者いずれの成功にとっても、中国との関係強化は欠かせない。経済面で言えば、日米欧が今年軒並みマイナス成長すら懸念されるなか、中国だけは過去数年と比べて減速するとはいえ、高成長を実現すると予想され、その巨大市場を如何に取り込むかが、アメリカ経済にとっても重要である。また、中国から輸入する廉価な衣類や日常品も、不景気の時だからこそありがたみが増す。現在の米中経済関係は、1990年代のクリントン政権に激しいバッシングを受けた頃の日米経済関係とは構造が違うのである。

 外交面で言えば、多国間主義に基づき国連や関係国と足並みそろえてイラク・アフガン問題はじめ国際社会の問題を切り抜けたいオバマ新大統領にとって、安保理常任理事国たる中国の協力は不可欠である。オバマ新大統領が積極的な取り組み姿勢を見せている気候変動問題についても、アメリカとともに世界最大の温室効果ガス排出国たる中国の協力なくしては、何も成し遂げられない。しかし、ここでアメリカが軽々に中国との関係強化を推し進めれば、1990年代にクリントン政権が見せた「Japan passing(日本はずし)」の再来を危惧する日本が、過敏な反応をしかねない。多国間主義を掲げるオバマ新大統領にとっては、中国とともに日本からの協力ももちろん必要である。拙速な対中関係強化を打ち出して日本の機嫌を損ね、織り込み済みの日本からの協力を得にくくすることは避けたいところだろう。
 
 オバマ政権による「Japan passing(日本はずし)」を危惧する論調は日本国内に溢れており、こうした日本の状況は、オバマ新大統領の対アジア政策スタッフにも届いているに違いない。賢明な彼らが、戦略的に日本への配慮を考えても何ら不思議はない。したがって、オバマ新政権は、まず日本重視の姿勢を鮮明にし、日本を安心させることで、次の一手の対中関係強化の環境を整えようとしているのではないか。ジョセフ・ナイ教授という有名人の駐日大使指名やヒラリー・クリントン氏のリップ・サービスも、こうした「Japan flattering(日本おだて)」の一環ではないか、と筆者は見ている。

 ただ、仮に「おだて」だとしても、「おだて」られているうちが花である。それを「おだて」だと知った上で、冷静に対応すればよいだけである。巷にはオバマ新政権が見せる対日・対中政策の一挙手一投足に一喜一憂する論調が多すぎるように感じるが、日本は中米関係に「やきもちをやく」必要はないのだから、日中米のトライアングルのなかで堂々と自国の利益を主張していくことを政府に期待したい。(おわり)
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