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2025-10-28 11:55
(連載5)令和からみた『新・戦争論』再考: 多極時代における日本の外交・安全保障の羅針盤
高畑 洋平
日本国際フォーラム上席研究員・常務理事/慶応義塾大学SFC研究所上席所員/グローバル・フォーラム世話人事務局長
結章 続編への道筋 ― 日本外交の未来構想
『新・戦争論』から『続・新戦争論』へ
令和時代の今、私たちが問うべきは、「日本外交はこの変容する戦争と秩序の関係性にどう向き合うのか」という根源的な課題である。本稿は、伊藤憲一の思想を引き継ぎつつも、21世紀型の複合危機を前に、日本が自らの外交的独自性をどのように発揮し得るかを探求する試みであった。伊藤が『新・戦争論』で提示したのは、「日本は国際秩序の傍観者でよいのか」という根源的な自問である。令和の私たちもまた、同じ問いを突きつけられている。ただし、その文脈は当時よりもはるかに複雑である。
大国間戦争の帰還、非国家主体の暴力の拡大、そして地球規模課題の深刻化。これらの「複合危機」の時代において、日本が果たすべき役割は、戦争の一当事者としてではなく、戦争と平和を超えた新しい秩序の設計者としての役割である。
その際、日本が掲げるべき理念は「調整力」と「人間中心性」である。軍事力を誇示するのではなく、異なる価値観や制度をつなぐ包摂的枠組みを提示すること。国家の安全のみならず、人間の尊厳と生活を守る安全保障を構築すること。これらは、日本が歴史的に蓄積してきた強みであり、令和版「新・戦争論」の核心でもある。
日本が「狭間国家」であることを戦略的に活かし、米国、欧州、ユーラシア、アフリカ、グローバルサウスを結ぶ「架け橋国家」として秩序形成に参画する。その姿こそが、「戦争と平和」あるいは「同盟か自立か」の二項対立を超えて、日本が果たすべき未来構想である。
『新・戦争論』における「新」の一字について、伊藤はあとがきで次のように語っていた。
「数多の戦争論がある中で、あえて『新』の一字を冠したこの戦争論を世に送る理由は、これをもって最後の『戦争論』にしたいとの私の願いがあってのことだからである」
混迷を深める令和の国際秩序において、我々はなお「続・新戦争論」を語らざるを得ない。しかしそれは、伊藤の願いに背くものではない。むしろ、彼の思想を継ぎ、戦争を抑止するのではなく、戦争の条件そのものを変革する外交を再構想するための試みである。
いま再び、日本は歴史の狭間に立つ。だが、その狭間こそ、未来を設計する余白でもある。ここからが、令和日本外交の新しい章の始まりである。 (了)
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投稿履歴
(連載1)令和からみた『新・戦争論』再考: 多極時代における日本の外交・安全保障の羅針盤
高畑 洋平 2025-10-24 09:28
(連載2)令和からみた『新・戦争論』再考: 多極時代における日本の外交・安全保障の羅針盤
高畑 洋平 2025-10-25 09:33
(連載3)令和からみた『新・戦争論』再考: 多極時代における日本の外交・安全保障の羅針盤
高畑 洋平 2025-10-26 09:36
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高畑 洋平 2025-10-27 09:39
(連載5)令和からみた『新・戦争論』再考: 多極時代における日本の外交・安全保障の羅針盤
高畑 洋平 2025-10-28 11:55
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