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2008-02-06 10:33
(連載)現状維持選択した台湾有権者(5)
岡田充
共同通信編集委員
与党に不利な要因を3つ挙げる。(1)立法院選で緑の地盤だった南部の高雄市や高雄県で国民党に得票率で逆転を許した、(2)地方の手足となる立法委員数が3分の1に急減した、(3)「選挙の神様」といわれる邱義仁・行政副院長の動きが鈍い、といった点である。国民党関係者は「中国石油、台湾電力、銀行など地方や末端の選挙マシンが動いていない。国営企業に対する行政院副院長の権限は、予算措置を含めて大きいが、邱は末端組織に働きかけていない」と言う。ある民進党関係者は「邱は、今回は選挙を諦め、自派閥の新潮流の再建に勢力を集中し、4年後に備える戦略だ」とみる。
民進党も陳スキャンダルで大きな亀裂が入った。敗北すれば、最大派閥の新潮流を中心に派閥の再編成が始まり、分裂含みだ。国民党も、敗北すれば政権奪回のチャンスはほぼ失われる。党は(1)連戦ら中国統一派、(2)王金平グループの本土派、(3)馬英九、胡志強・台中市長ら若手エリート、の3派に割れ、党内闘争が始まろう。与野党とも自党の存立と命運をかけた戦いとなる。
東アジア各国の政治は底流で共振している。冷戦後の新秩序模索の過程で、大国化する中国周辺の状況は流動化した。台湾海峡でも1996年、武力威嚇する中国に対し、米国は空母を出動させてけん制した。しかしこの危機は、米中対立の中心的位置を占める台湾問題をめぐり、3者が協力とけん制の現状維持枠組みに共通利益を見出す契機ともなったのである。
2000年の民進党政権の誕生は、中国に対し民意の重さを自覚させたものの、新たな政策展開は出来ず、常に守勢に立たされた。胡政権から攻勢に転じられたのは、そもそも米国と台湾が主張していた「現状維持」に中国が「乗り」、大国化と米中協調をバックに陳政権の「冒険主義」を包囲することに成功したからである。立法院選から見える台湾の主流民意は、現状維持と平和、繁栄である。立法院選こそ2期8年の陳政権に対する「振り子効果」が働いたとみるべきだろう。国民党が大きなミスを犯さず、予測不可能な突発事がなければ、総統選もこの傾向が継続するはずである。
日本、中国、台湾、朝鮮半島など、東アジアでは1990年代半ばからナショナリズムが各国政治を突き動かし、国際関係に摩擦を生みだした。冷戦終結と中国の台頭に伴う、大国間の勢力変化に刺激されたのである。新興国家の大国化を受け入れる心理的準備が整っていないからでもある。しかし、最近各国で「脱ナショナリズム」の兆候が出始めている。保守ナショナリズムを掲げた安倍首相は、日米同盟との股割きにあって退陣し、韓国でも民族主義政権に代わり、実利政権が誕生する。隣国との摩擦に耐えながら民族主義を維持するには相当の体力が要る。ナショナリズムに疲れた東アジアの底流は、台湾にも共振するかもしれない。(おわり)
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