外交円卓懇話会

第263回国際政経懇話会
「日中アセアンとメガFTA」

2014年3月31日
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 第263回国際政経懇話会は、石毛博行日本貿易振興機構(JETRO)理事長を講師にお迎えし、「日中アセアンとメガFTA」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2014年3月31日(月)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「日中アセアンとメガFTA」
4.講 師:石毛博行 日本貿易振興機構(JETRO)理事長
5.出席者:32名

6.講師講話概要
 石毛博行日本貿易振興機構(JETRO)理事長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

中国からASEANへのシフト

 日本の対外直接投資は、中国向け、ASEAN向けとも2011年にはリーマンショック前の水準を上回っている。しかし、2013年には中国向けが1年で1.08兆円から0.89兆円へ減少(17.7%減)し、ASEAN向けが1.15兆円から2.33兆円へ倍増して、ASEAN向けが中国向けの2.6倍となった。その背景には、ASEAN自身の消費市場拡大に加え、中国での人件費の上昇(アジア主要国における日系企業の賃金の中国との比較では、マレーシア、タイは同等かそれ以上だが、インドネシア、フィリピン、インドは6割、ベトナムは4割、バングラデシュ、カンボジアは4分の1の水準である)、中国一極集中へのリスク意識の高まりなどがあるとみられる。ただし、進出日系企業が中国から完全撤退するケースは少なく、生産拠点の一部移管が多い。なお、日系企業の「今後1~2年の事業展開の方向性」に対する「拡大」回答割合は、中国は順調に増加していたのが賃金上昇及び反日デモに伴う中国リスクへの意識の高まりによって2012年以降大きく減少した。ASEANはリーマンショックの影響で2008年に大きく減少したが、その後順調に回復している。

中国

 中国の対外直接投資は年々増加し、2012年は2007年比3倍(270億ドル→842億ドル)になっており、米国、日本に次いで世界第3位となった。しかも、中国による対日M&Aも2009年以降急速に増加している。そして、1人当たりのGRP(域内総生産)が1万ドルを超えた中国の都市数は、2007年の3都市から2012年には45都市に拡大した。これらの都市の総人口は1,261万人から2億3,659万人とここ5年で20倍近くまで増加した。このことによって、高付加価値な製品やサービスに対する消費の拡大が見込まれている。

ASEAN

6億人の人口を擁するASEAN諸国は、購買力を持った中間層・富裕層が拡大しつつある成長著しい消費市場として注目を集めている。ASEAN諸国では所得水準の向上とともに、小売りチャンネルが個人経営の小規模店からスーパーマーケットやモールなど近代的な店舗へシフトしており、日本企業が参入可能な小売り・サービス市場が生まれている。

インド

インドにおける投資環境上の問題点は、中国、ASEANに比べ行政手続きの煩雑さ、インフラの未整備の面での問題が突出していることである。インド発展のためには、投資環境の整備を飛躍させる州間競争によって国際競争力を強化し、外国直接投資を増加させ、中東、アフリカへの輸出を拡大すべきである。

メガFTAの動き

メガFTAは、シンプルで統一された貿易ルールを共有するので、国境を越えたサプライチェーンが形成されやすくなる。通常のFTAは関税引下げが中心だが、メガFTAでは、サービス、投資、知財等のビジネス環境が統一されることによって、企業の内外での活動を促進出来る。2013年7月の日本のTPP交渉参加は、このメガFTA始動の契機となった。太平洋がTPPにより、一つの巨大な経済圏の内海になろうとしている。TPP交渉には、太平洋を取り囲む11カ国が参加している。このTPPが目指すものは、太平洋を自由に、モノやサービス、投資などが行き交う海とすることであり、世界経済の約3分の1を占める大きな経済圏が生まれつつある。TPPとRCEP、日中韓、日EUなどが相互に刺激しあっているが、特にTPPへの日本の参加は、その動きを大幅に変えたという点で、まさにゲームチェンジャー。TPPの成功が他のメガFTAの成功を左右するといっても過言ではない。

WTOの動き

WTOの機能には立法機能、監視(モニタリング)機能、司法機能がある。「司法」、「監視」は機能しているが、立法機能は麻痺していた。しかし、バリ合意以降、「立法」も機能するようになるかもしれない。日本にとって、WTO、FTAは車の両輪と捉えるべきである。


(文責、在事務局)