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(連載2)米「エルサレム首都認定」で利益を得る者 ← (連載1)米「エルサレム首都認定」で利益を得る者  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳) [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-22 23:22 [修正][削除]
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No.3437
 そのトルコ政府にとって最大のライバルは、メッカとメディナという二つの聖地を擁し、イスラームとりわけスンニ派の盟主として君臨するだけでなく、世界屈指の産油国でもあるサウジアラビアです。そのサウジに対して優位に立つための一つの手段として、トルコは価値観や文化といったいわゆる「ソフトパワー」を多用してきました。そのなかには、厳格なイスラーム体制であるサウジアラビアを念頭においた、トルコ型の「民主主義とイスラームの両立」に優位性の宣伝だけでなく、公式には「オール・イスラーム的課題」のはずであるにもかかわらず、サウジアラビアが関与に消極的なパレスチナ問題への取り組みがあげられます。例えば、イスラエルが2007年にパレスチナのガザ地区を「テロの巣窟」として封鎖し始めた後、この地では食料やエネルギーの不足が深刻化。これに対して、「人道支援」の名目で食料などを輸送していたトルコの民間団体がイスラエル海軍に攻撃され、9人が殺害されています。これに代表されるパレスチナ支援は、ほとんど何もしないサウジなど他のスンニ派諸国との対比を念頭に、「パレスチナ問題に積極的なトルコ」のイメージを流布するものでした。つまり、パレスチナ問題への関与を深めることは、トルコにとって、イスラーム世界における幅広い支持を集める手段という側面があるといえるでしょう。

 トルコのこの姿勢は、その支持基盤とも無縁でありません。先述のように、エルドアン政権はムスリム同胞団の支持を得て勢力を拡大させました。ところで、ガザ地区を実質的に支配してきたハマスは、ムスリム同胞団パレスチナ支部から分裂した組織です。そのため、やはりムスリム同胞団を支援するカタールとともにトルコはハマスを支援してきました。これに対して、イスラエルや米国はかねてからハマスをアルカイダやイスラーム国とともにテロ組織に指定してきましたが、近年ではサウジなどスンニ派湾岸諸国もこれに歩調をあわせています。今年6月にサウジアラビアがカタールと断交した一つの理由は、同国がハマスを支援していたことにありました。ただし、サウジがアルカイダなどスンニ派武装組織に資金を提供してきたことは、いわば公然の秘密です。その方針を翻して米国などと協力し、イスラエルによる占領に抵抗するハマスを封じ込めることは、サウジにとってはイスラーム圏での指導力にかかわるリスクを抱えたものです。これは翻って、ハマスを支援する方針は、トルコの存在感を高めてきたといえるでしょう。

 こうしてみたとき、トランプ政権による「エルサレム首都認定」に対してトルコがひときわ大声で異議を申し立てたことは、不思議ではありません。それはトルコ人とアラブ人という民族の違いを超えて、イスラーム世界におけるエルドアン大統領の存在感を高める効果があるといえます。いわばパレスチナ問題を自らの指導性に結びつけている点で、エルドアン大統領はサダム・フセインと共通するといえるでしょう。もちろん、1991年のイラクと異なり、トルコが米国と正面から衝突することは、ほとんど想定できません。トルコは現在もNATO加盟国で、米国の安全保障上のパートナーであるばかりか、シリア難民の保護でも西側と協力しています。さらに、少なくとも現状において、多くの湾岸諸国と異なり、トルコはイスラエルとの国交を維持しています。ただし、サウジが米国との関係を加速度的に回復させているのと対照的に、トルコが米国の引力圏から急速に離れていることも、また確かです。そして、「エルサレム首都認定」を契機にトルコの影響力が中東で高まれば、それは米国やサウジの存在感が小さくなるのとともに、ロシアやイランの勢力がさらに大きくなる契機になり得ます。

 12月11日、プーチン大統領はロシア軍にシリアからの撤退を命令。ロシア軍による「イスラーム国」制圧がほぼ完了したことを印象付けました。西側諸国はこれを認めようとはしませんが、シリアでの戦闘がロシアやイラン、そしてそれらに支援されるアサド政権の優位で終結に向かっていることは否定できません。この状況下、先述のようにロシアやイランとともにシリア内戦の終結に向けた協議を主導するトルコは、アサド政権に敵対する勢力を支援してきた欧米諸国やスンニ派湾岸諸国より、「地域の安定に貢献した国」として認知を得やすい立場にあります。今回のOIC会合は、これをさらに加速させるものといえるでしょう。第二次世界大戦後、米国は安全保障、経済ともに中東で大きな影響力を保ってきました。しかし、「エルサレム首都認定」はイスラーム世界における反米感情を高め、2003年のイラク侵攻と同様、米国自身の立場を浸食させるものであり、それは中東一帯の力関係に大きく影響し、この地域の政情をさらに不安定化させるとみられるのです。(おわり)

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